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大内田悠平さん(吉住計志役)

 今回はまず台本を読み、その後で原作の小説も読みました。正直、吉住の生き直すために戸籍を交換した行為を、僕は“逃げ”のように感じて。『吉住って情けないな』と思ったんです。多くの人がそういう状況に置かれたとして、何とか踏ん張っているだろうし、自分を律して逃げることなく良い方向に進もうとしているはずです。僕自身もそうありたいので吉住の弱さに嫌悪感を抱き、武藤さんに対してさえ、もっと前向きに生きればいいのに、と思いました。台本や原作を読めば読むほど、この作品で起きる事件や、吉住たち登場人物に苛立ちが募りました。

 なぜそこまで否定したかったのか。冷静に考えると、僕の中にも吉住や武藤さんと同じような弱さが心の奥底にあるからだと気づいたんです。きっと、自分の弱さを見せつけられているような気がして、認めたくなかったのかもしれません。

 もう一つ感じていることもあります。僕は周りからの愛情に恵まれて育ちました。だからみんなを裏切るような真似はしたくないと思っています。そのため、吉住のように人から寄せられた期待をプレッシャーに感じて逃げている人間を見下してしまいましたが、そういう気持ちが誰かを追い詰めてしまうかもしれないと思いました。それは怖いことですよね。

 視聴者の方の中には、戸籍を交換して生き直そうとする人たちのことを、遠い世界の話と思う方もいるかもしれません。僕自身、この役を演じてみて、吉住の弱さは誰の心にもあると感じたので、今は彼のことを『しょうもない奴だな』とは思ってほしくないです。

 吉住は厳しい競争社会の中で脱落した人間かもしれません。でも、最後に武藤さんや、吉住に好意を寄せる育美(生越千晴さん)と出会い、一歩踏み出しました。その姿から、昨日までの自分がどんなにダメだったとしても、人は頑張ればやり直せるチャンスはある、ということを伝えている気がします。そう感じてくれた方がいたらうれしいです。

 『復讐の是非』という作品のテーマについて、僕なりに考えました。誰かを憎いと思ったり、武藤さんのように極限まで気持ちが高ぶったりしてしまうのはしょうがないことだと思います。なぜなら人間には感情というものがあるので。普段の生活の中でも、他の人には他愛ないことなのにどうしても許せないことってありませんか? そんな感情を抱いたとして、大事なのは我慢できるかどうか。人はそのときどき芽生えた気持ちに何とか折り合いをつけて、バランスを取りながら生きていくしかないと思います。『犯罪症候群』の登場人物たちを見ていると、感情のバランスをうまく取ることが出来ず、危ない行動に出てしまった人が多い気がします。人はタイミングを誤ると、転落してしまうことの怖さを描いていると思いましたし、それは誰にでも起こりうる可能性があるのではないでしょうか。だからこの作品には説得力があるのだと思います。