
生島翔さん(後藤俊和役)
この作品では、犯罪に手を染めた者たちの、そうなってしまった理由や、心の闇に正面からぶつかっている印象を受けました。主人公の武藤さん自体、刑事でありながら殺人を犯す一歩手前まで心を持っていかれましたし、ジーニアスや後藤は実際に犯罪者になってしまいました。武藤さんとジーニアスや後藤は決定的に違うものの、根底ではドラマのタイトルでもある“犯罪症候群”に陥った人たちなのかなと思いました。
ジーニアスの犯行には、自分をバカにした“現代社会”への復讐心があったと思います。後藤も同じく“学歴社会”を見返したかったのではないでしょうか。兄のジーニアスが神童と言われ、両親からの愛情や期待を受ける一方、後藤は疎外されてきたはずです。勉強も出来るタイプには思えませんし、学歴社会から落ちこぼれてしまったゆえの犯罪者というのでしょうか。学歴社会に対抗するだけの価値観を見つけられなかった弱さが後藤にはある気がします。
もともとの後藤は単純で、愛すべきバカな男です。でも、考えが至らないのも度が過ぎるとやっぱり悪だと思います。自分の進むべき道、方向性を見つけられないのに欲望に従い、目的達成のためには犯罪すら働いてしまう。犯行理由も『生活費が無くなったら、子どもを誘拐すればいんでしょう』と本当に短絡的ですし、見た目もチャラくて、発言も行動も軽率、さらに乱暴で…。演じていて気持ちの良い役ではありませんでしたが、後藤には社会の中で居場所を見つけられなかった苦悩や悲しみがあり、強烈なコンプレックスを抱くジーニアスとのシーンではその一端が出せたら、と思いました。
ジーニアスと後藤の関係も興味深かったです。ジーニアスは後藤のことも見下しながら、結局頼れるのは弟の彼だけ。後藤も後藤で、兄貴に頼られたのは初めてのことだったのかもしれません。最初は犯罪であろうと、二人で何かすることがうれしかったかもしれませんけれど、途中からは関係がどんどんこじれていくところは、まさに兄弟ゆえだと感じました。
ドラマのテーマ“復讐”については、もし復讐したいというほどの強い感情が湧いてしまったら、それをどう形にするのかが大切ではないでしょうか。僕は海外での生活が長く(注:生島さんはダンサー、振付師としてアメリカで活躍)、昔ほどではないものの“アジア人”というだけで希望する作品への出演が叶わなかったこともありました。そんなときに味わった“なにくそ!”という気持ち、反骨精神が僕を奮い立たせて、アメリカで頑張ってこられたんです。最初はネガティブな感情でも、それを消化して良い形で表に出すことを僕はアメリカで学んだつもりですし、復讐心すら良いエネルギーに変えたいと僕は常に思っています。