- 台本を読んでの感想をお聞かせ下さい。
- 道治という人物に気持ちが乗せられる話だと思いました。人間としての葛藤、親子だからこその憎しみが描かれていて、それがどう展開していくのか。おもしろくて乗って演じています。
- ドラマの中で道治は“悪役”に見えると思いますが。
- 人間誰しも、道治のような面があるんじゃないでしょうか。ただこういう人物の場合、普段は悪どいというか、ダーティーな一面は見えないようにしているはずです。とは言え人間ですから、裏の顔が思わず出てしまうことがあるでしょう。今回、そういう心の動きが台本の中にしっかりと書かれていたので、私としてはどう演じ、どう表現しようか考えました。それが道治のような役を演じるときの楽しみでもありますね。
- 道治を演じる上で、大切にしたのはどういう点でしょうか。
- 息子との間に確執があり、それが悲劇に繋がってしまいますが、気持ちとしては息子を助けたいとは思ったはずです。その一方で、会社を一代で大きくしてきたわけで、誘拐された孫の身代金として一億円要求されたことは、道治にとって、自分がこれまでしてきたことを踏みにじられた思いなんじゃないか、という気がしています。『なりふり構わずここまでやってきて会社を大きくしてきたのに、なぜここでつまずかなくてはいけないんだ』と。そんな道治の葛藤ですね。いかに会社を守り、その上で孫が無事帰ってくるにはどうすればいいのか。最終回で、道治がそのために何を考え、どんなことをしたのか描かれますが、道治の己に対する執着心が何を引き起こすのか。きっとご覧の皆さんもいろいろ感じていただけると思います。
- いま、おっしゃったように人間はいくつになっても“執着心”が捨てられないものでしょうか?
- 私自身、そういうものはあまりないタチですけど、実際、何かしらに事件が起きて、その原因が執着心だった、なんてこともあります。だから、人の心の片隅にはいつまでも何かに対しての執着心があるのかもしれないですね。
- 本作の「復讐の是非」というテーマについて、どう思われますか?
- これは本当に難しいと思います。ニュースを見ていると、殺人事件の判決について、遺族の方が不服とおっしゃっていることがあります。懲役何十年でも許せなくて、やっぱり死を持って償ってほしい、と。私はそんな激しい思いを持ったことはありませんが、もし当事者になってしまったら、そう思ってしまうことも分かる気がします。自分の身内だけでなく、親しい人が事件に巻き込まれて大変な目に遭ったのに、犯人がのうのうと生きていたら、誰しも許せないと思う。この物語では、道治の息子、道典がそういう気持ちに苛まれ、その末に取った行動にとても説得力があると思いました。
- Season1最終回の見どころは?
- 道治と武藤さんが対峙する場面があって、そこで道治が言うセリフに彼の思いが集約されている気がします。道治は今回の一件に対し、どうしても納得がいってないんですよ。息子が、自分が望まない結婚をしなければ、自分に従って大人しく会社を継いでいればこんな事態には…、という思いがあり、そういう気持ちを捨てられなかったから、更なる悲劇が起きてしまいます。人間のいつまでも心から消えることのない、様々な思いが最終回でも丁寧に描かれるはずです。
- 先ほど伺った執着心同様、人はいつまでも迷いや断ち切れぬ思いを持ち続けるのでしょうか?
- 私だっていくつも、そういう気持ちを抱いてきましたよ。でも、やむをえず断ち切ってここまで生きてきただけで。長く生きていればズルくもなり、何事にも逃げ道を作るものです。でも、そうやって何となくやり過ごすしかない。道治はそれができなかったからの悲劇でしょうね。
- ところで竜さんは東海テレビ制作の昼ドラ最終作「嵐の涙」に出演し、今回「オトナの土ドラ」が1周年を迎えての記念作にも出演となりました。
- その話を聞き、すごくうれしく思っています。私はまさにテレビ世代の人間。テレビで育ち、テレビのおかげで暮らしてきました。それこそ50年以上。東海さんの昼ドラは、まさにテレビドラマらしい良さが残っていた枠で、その最後を飾る作品に参加させてもらえて光栄でした。さらに今回は新しい枠の記念作でしょ。そういう作品に呼んでもらえて、『まだまだテレビドラマの中で生きていていいよ』と言ってもらえた気がしています(笑)。